非IT業界にも脚光を浴びるITパスポート試験|どんな試験?

ITパスポート試験 エンジニアへの道

考えれば考えるほどダークな未来予想図しか思い浮かばない世相の昨今ですが、時間を有意義に使おうと新たな資格取得に挑戦する人が増えています。

そんな波に乗って、Webエンジニアを目指す筆者も2021年10月に「ITパスポート試験」を受けてきました(結果はギリギリ合格…)。

ITパスポートは、IT業界ではその登竜門として知られた試験ですが、IT業界以外の人材からも注目を浴びており、コロナ禍以降応募者が急増しています。

日本でプログラミング教育が取り入れられたのはつい最近のこと。IT技術なしには語れない現代において、学校では学ばなかったIT知識を勉強する社会人が増えているのも必然の流れかもしれません。

いま全方位から注目を浴びるITパスポート試験とはどんな試験なのかご紹介していきます。

本記事は2021年11月時点の情報をもとに記述しています。試験の出題範囲などは頻繁に改定されますので、受験を検討される方は最新の情報にご注意ください。

ITパスポート試験|どんな試験?

「IT」はわかるけど、なぜ「パスポート」なのか?試験を実施する独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のホームページでは次のように紹介されています。

日本から世界に羽ばたく際に身分を証明するために「パスポート」が必要であるように、IT化が進んだ現代社会に羽ばたくために社会人として必要な基礎的能力を有していることを国が証明する試験(パスポート)として「ITパスポート」が誕生しました。

これから社会人となる学生や、いま社会で働く社会人に、ぜひ挑戦してもらいたい試験です。

引用元:「iパスとは」-IPA

ITパスポートはITに関する国家資格

ITパスポート試験は、「情報処理の促進に関する法律」により規定された国家試験のひとつです。

もともとは、IT人材の育成のために国が試験を行い、その能力を経済産業大臣が認定するという建て付けで2009年からスタートした制度です。法律に基づく国家資格なので、運転免許などと同様に履歴書にも記載することができます。

しかし、誰もがパソコンやスマホでEメールやLINEを送受信し、Webサイトを閲覧し、家電製品にもIT技術が使われるのが当たり前の世の中になりました。

つまり、IT知識がIT業界だけのものではなくなり、世の中の趨勢がITパスポートのレベルに追いついてしまったともいえます。

2021年11月24日デジタル庁の職員がメールを誤送信し、メールアドレス400件が受信者に共有されてしまうという誠に笑えない事件が起きてしまいましたが、担当者がITパスポートの勉強をしていれば防げた可能性が高いと思われます。
IT以前のヒューマンエラーの問題かもしれませんが、宛先が400件もあるメール送信でヒューマンエラーが起きてしまうシステムがかなりヤバいとITパスポートでは習います。

章の冒頭で紹介した「学生や社会人にぜひ挑戦してもらいたい試験です」というメッセージにはまさに同感です。

どんな問題が出題されるの?

ITパスポートの試験範囲は「試験要綱」「シラバス」により公表されており、最新の要綱(Ver.4.6)による分野別出題と合格基準は次のようになっています。

出題分野 出題数 合格基準点
ストラテジ系 32問 300点/1000点満点
マネジメント系 18問 300点/1000点満点
テクノロジ系 42問 300点/1000点満点
総合評価点 600点/1000点満点

(このほか今後出題する問題を評価するための採点対象外の問題が8問ある-合計100問)

「ストラテジ系」「マネジメント系」「テクノロジ系」の3分野から出題され、それぞれの分野で3割以上、総合点で6割以上正解すれば合格となります。なお、試験はすべて4択問題で、試験時間は2時間です。

ストラテジ系(経営全般)

「企業法務」「経営戦略」「システム戦略」に関する基本的な知識が問われます。

ITの試験なのになぜ経営に関する問題が出るのか疑問に思われるかもしれません。しかし、ITは経営戦略の明確化や経営の効率化、利便性向上の手段です。ITパスポート試験では、ITを活用した問題解決能力にもつながる実践的な知識が問われるということのようです。

マネジメント系(IT管理)

「開発技術」「プロジェクトマネジメント」「サービスマネジメント」に関する問題です。
出題数は少ないものの、開発実務の経験がなければ初めて聞く用語のオンパレードでしょう。

テクノロジ系(IT技術)

「基礎理論」「コンピュータシステム」「技術要素」に関する問題です。パソコンを扱った経験があれば、なんとなく理解している、聞いたことがあるという問題も少なくありません。

ITパスポートで過去に出題された問題は、「ITパスポート試験ドットコム」の過去問道場というサイトで公開されています。

ふだんパソコンを使っている、社会人として働いているという方であれば、解答できるという問題も少なからずあると思われます。どれくらい解けるか試してみるのもお勧めです。

ITパスポート試験|どんな人が受けている?

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のホームページでは受験者の属性などに関するデータが公表されています。そこから読み取れる受験者像をいくつかピックアップしてみました。

データ引用元:IPA HP「統計情報」「応募者データ

応募者は年々増加し累計100万人を突破

2009年にスタートしたITパスポート試験ですが、年度ごとの応募者数をグラフにしてみました。

ITパスポート年度別応募者数

コロナ禍に見舞われた2020年度には応募者数が過去最高となりました。2021年度は4月から10月までの応募者が11万人を超えており、過去最高を大幅に更新する勢いです。

制度発足から11年目の2019年度には累計応募者数が100万人を突破しており、ITパスポートの人気に衰えはないといえそうです。

受験者の年齢は小学生から80歳以上まで

ITパスポートは年齢や学歴などは一切関係なく、誰でも受験することが可能です。また、視覚などに障がいがある方にも特別措置が設けられており、広く門戸が開かれています。

2020年に限ると、応募者の年齢層は20代が約5割を占め、「10代以下」「30代」「40代以上」がそれぞれ2割弱となっています。

筆者が受験した会場でも、約20名ほどの受験者のうち、40代以上とおぼしき人が5人はいた記憶です。若い人に混じって受験するのはちょっと…という心配はしなくて大丈夫でしょう。

(追記)IPAの発表によると、11月中に実施されたITパスポート試験で86歳が合格し、それまで83歳だった最年長合格記録を更新したとのことです。なお同発表によると、最年少記録は小学3年生とのこと。(出典:2021年12月14日IPAプレスリリース

社会人の応募者は非IT系が7割弱

プログラマー

日本におけるIT人材は約110万人といわれており、全労働人口の2%にも満たない規模です。

社会人のITパスポート応募者は「非IT系」が67%を占めています(2020年度)。日本におけるIT人口は2%未満なので単純に比較はできませんが、ITパスポート試験はIT業界以外にもニーズがあることがうかがえます。

合格率をみると、「非IT系社会人」が62.4%、「IT系社会人」が55.5%、「大学生」が53.6%と続きます(2021年4月~10月)。
IT系社会人の合格率がやや低いのは謎ですが、IT系社会人でなくても合格するのはそれほど難しくない、ほどよい難易度といえそうです。

ITパスポート試験|2022年4月から大きく変わる

2022年4月といえば、成人年齢が18歳となるパラダイムシフトが起きる時期ですが、その陰でITパスポート試験も大きく変わります。

出題範囲が拡大される

2022年から高校の必修科目に「情報Ⅰ」が加わることに合わせて、ITパスポートの出題範囲が拡大されることが決まっています。

「疑似言語を使ったプログラミング的思考力」「情報デザインの理解」を問う…とありますが、おそらく得意・不得意が大きく分かれる分野ではないかと思います。

学校でIT教育を受けてこなかった現役社会人にとっては新たな宿題が増えるような話ですが、日々進化するIT技術とともに、ITパスポート試験もどんどん前に進んでいくということでしょうか。

受験料が値上がりする

2021年現在受験料は5700円ですが、2022年4月以降の受験から7500円に値上げされます。

これはメール誤送信事件なみにお寒い話ではないでしょうか。

IT教育が立ち遅れて人材の不足が叫ばれているこのご時世に、値上げにより得られるたった1.8億円(10万人×1800円)の増収と引き換えに、受験者の経済的なハードルを上げるという発想は残念でなりません。